08ザンビアの感染症と予防接種

 ザンビアは感染症のデパートと言っても過言ではないほど感染症が日常茶飯事に存在する。このような環境の中に送り出すわけだから、出国前に訓練期間中を利用して黄熱病、コレラ、小児麻痺、破傷風、狂犬病、A型肝炎など様々な感染症に対する予防接種を受けた。さらに、予防接種が出来ないマラリアはクロロキンをどっさりもらい、そして、効力が短いA型肝炎についてはザンビアで3ヶ月に一回接種が行われた。現在はA型肝炎は良質のワクチンが開発されたので日本国内で抗体を作ることも可能となっている。B型についてもしかりである。

 これらの感染症のほかに最も危険であったのがHIVであった。当時はまだその伝播経路がはっきりと確認がされていなかったが、アフリカに生息するサルから突然変異的に人間に感染し伝播されたとする説が有力であり、マスコミはこぞってその報道をしていた。協力隊では、HIVに関しては医療講座で現地からたまたま帰国していた医療調整員によりHIVはザンビアに存在する旨の報告があった。また、丁度訓練期間中に朝日新聞がその説を掲載した。しかし、特効薬はなくそのような状況の中へ放り込まれることは明白であり、医療調整員いわく”絶対に遊ばないこと”というのがアドバイスであった。

後日談であるが、任期満了帰国した際、健康診断を受けるのであるが、JOCV事務局は本人へ通知なくHIVの検査を行っていた。しばらくしてその結果が届いて驚いたものだ。

ザンビアではマラリアが最も罹り易い感染症だった。今もそうだと思う。訓練期間中に隣国マラウイで急性脳性マラリアで一人亡くなったことが伝えられた。私の帰国後数年してザンビア北部の女性隊員がやはり脳性マラリアで亡くなっている。

同期の隊員に協力隊へ参加する前にタンザニアに滞在した経験がある人がいた。彼の話のよると、タンザニアでマラリアに罹り、大使館の巡回医師が持っていたキニーネで助けられたという。

ザンビア人は子供の頃からそのような感染症に慣れ親しんでいるので、つまり、それらを乗り切っていないと現在この世にいないということで、生命力がある人たちばかりとも言える。しかし、我々日本人はそのような熱帯病がない地域で育っているので、まったく免疫がない。つまり抵抗力が白紙ということだ。

マラリアはハマダラ蚊によって媒介され、マラリア原虫は肝臓に留まり,赤血球が酸素を運ぶのを阻害する。私の任地であったルサカは標高が1200mあり、マラリアは流行していないと聞いたのでクロロキンの常用は最初の1ヶ月くらいで止めた。これはクロロキンは眼に副作用があるとの報告もあり、ルサカに暮らしているときは自主的に飲まなかった。ルサカでマラリアにかかる人はここよりもっと低地へ行ったときにハマダラ蚊に刺され、持ち帰ってくるのだという。

万が一マラリアに罹った場合のためにファンシダールという抗マラリア薬ももらっていた。これはクロロキンが効かない場合、ファンシダールを飲んで対応するというもの。マラリアも進化しており、これまでクロロキンが投与されていたので、対クロロキンマラリアが存在するとのことであった。生物の進化はすさまじい。現在は抗マラリア薬はさらに進化し眼にも副作用のない新薬が開発されていると聞いている。

 A型肝炎は経口感染で伝播するので生野菜を口にすることは気をつけるようにと講義を受けていたので、食事は出来るだけ火を通したものも口にするようにした。私の知る範囲では幸いにも任期期間中にA型肝炎を発症した人はいなかった。

 定期健康診断の際、地方隊員からランブル鞭毛虫が発見され、駆虫剤が処方された例を知っている。この程度ならまだましなほうだろうか。カッパーベルト地帯から帰国した隊員から、アメーバ赤痢菌が発見され、東京で隔離されたという話をきいた。赤痢が発症したのではなく、赤痢菌が腸壁にくっついていたとのこと。

その他、ビルハルツ住血吸虫やマンソン住血吸虫も存在するので裸足で歩いたり、水に入らないように指導されていた。

 身近ではプチフライという肉ハエがよく話題になったし、犠牲者も何人かいた。特に女性に多かった。このプチフライは、洗濯した衣類を外に干した際、洗濯物に卵を産みつけそのまま着用すると、皮膚の中に幼虫が入り込み成長する。このため、外に干した衣類は下着類を含めて必ずアイロンをかけるのがここザンビアでは常識だ。それでも、アイロンをかいくぐってくるプチフライもいる。知り合いの女性隊員は丁度パンティのゴムのライン状ににプチフライを飼っていた(ブラのライン上もある)。これが成長してくるとシコリ状になり自覚する、何気にシコリをつまんでみると、そこから幼虫が顔お出して驚嘆したという話を聞いた。そしてとても痛いらしい。

参考までにプチフライの説明を!

蠅蛆病(ようそびょう)

通称、肉バエ(スペイン語名:Mosca Cochlomyia Hominovorax、学名:Dermatobia Hominis)と呼ばれるハエが、哺乳動物の皮膚に卵を産み落とし、孵化した穿孔ウジ(EL GUSANO BARRENADOR)が周りの生体の肉や血を食べ成長していくもので、正式には蠅蛆病(ようそびょう)(学名:MYASIS)と称します。但し、これによって感染する病気はありません。

こんな状況のなかでザンビア生活が始まった。


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